にふだう
よし
餅を好む入道ありけり。医師なりければ、呼びて、好む由を聞きて、
あるじ
主、餅をさせけるが、つく声を聞きて、この入道、「おうおう」と声
を揚げ、おめきつつ、果ては畳の縁に掴み付きて、もだえこがれて、
つか
そろ
まれ
ごと
「あら堪えがたや。入道が聞かざる所にてつかせたまへ。彼の声を聞
くは堪えがたく候」と云ひければ、これ程の事は希なれども、人毎に
好む事あり。いかに物を好まぬ者も、或は徒らなるを好み、或は昼寝
ある
いたづ
かゆ
を好む者あり。 ある僧は、朝の粥を忘れて食はずして、日闌くるまで
起きず。「いかに粥をば召さぬぞ」と人云へば、「粥よりも、寝たるは
はる
あじはひ
遥かに味の吉きなり」と云ひけり。
(「沙石集」による。)
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