絵仏師良秀
これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。 家の隣より火出で来て、風
おしおほひてせめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする
仏もおはしけり。また衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。 それも
知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。
*
見れば、すでにわが家に移りて、煙、炎くゆりけるまで、おほかた向か
びのつらに立ちて眺めければ、「あさましきこと。 とて、人ども来とぶら
ひけれど、騒がず。 「いかに」と言ひければ、向かひに立ちて、家の焼
くるを見て、うちうなづきて、時々笑ひけり。 「あはれ、つるせうとく
かな。年ごろはわろく書きけるものかな。と言ふ時に、とぶらひに来たる
者ども、「こはいかに、かくては立ち給へるぞ。あさましきことかな。も
のの憑き給へるか」と言ひければ、「なんでふものの憑くべきぞ。年ごろ
不動尊の火炎を悪しく書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心
待つるなり。これこそせうとくよ。 この道を立てて世にあらむには、仏だ
百千の家も出で来なむ。 わたうたちこそ、させる能も
*
1絵仏師仏
2良秀 伝未
3ことにして
4向かひの
う側。
・「いかに。
5 しつるせ
けものを
利益の意。
るもの 人
い。
7なんでふ
霊が取り
でふ」は
王の一つ。
この道を立
10わたうた
11よぢり不
れた不動
8不動尊