- 次の文章を読んで、あとの各問いに答えなさい。
ロンドンの街を歩いていると、羨ましくてならないことが一つある。
街の建物が古いまま残っていて、歴史やその歴史の中を生きてきた人々の心
がさながら凍結され、凝固して、不思議な風韻を漂わせているからである。た一
とえば、十九世期末から二十世紀初頭くらいの建築だったら、街中いたるとこ
ろにある。それは、しかも、ただそこに「在る」だけじゃなくて、立派に「生き
て」いて、歴史というものの連続性を目に見える形で訴えかけてくるのである
かものちょうめい
ひるがえって、我が国では、かの鴨長明が「行く河の流れは絶えずして、し
かももとの水にあらず」といみじくも嘆じたごとく、街も人も常に変わってい
くもので、その有為転変の中に、歴史も人も、いや全ての「存在」の実相があ
らr る
ると観じてきた。街の景観や、それを形づくっている個々の建物などが、落花
りゅうすい
流水、はかなく散り失せてわずか数十年の命をしか保ち得ないのも、けだし当
然のことだと言わなくてはなるまい。
しかし、こういうことがないだろうか。たとえば、つい半年前までずらりと
商店が並んだ「見慣れた」街並みであったものが、時に利あらず、あっという
間に空き地になってしまう、そうすると、さてこないだまであれほど見慣れて
り
いて、毎日のように買い物をしていた、その街並みの「どこに」「何が」あった
か、はてすっかり思い出せない、どんな景色だったのかも、すでに全く忘却の
かなたに消え失せている、とそういう経験が……。風景の、追憶の、国籍喪先
人は、何でもない景色やあえかな匂いや、そういうはかない「もの」との抜
き難い関連の中に「人生」を生きているのである。そうすると、その景観があ
えなく消滅してしまったとたんに、すでにあれほど強固な記憶ど見えていたも