はどこ?
Kの部屋を回避するようにして、こんなふうに自分を往来
の真ん中に見いだしたのです。私にはむろんどこへ行くと
いうてもありません。ただじっとしていられないだけで
した。それで方角も何も構わずに、正月の町を、むやみに
歩き回ったのです。私の頭はいくら歩いてもKのことで
いっぱいになっていました。私も気を振るい落とす気で歩
き回るわけではなかったのです。むしろ自分から進んで彼
の姿を咀嚼しながらうろついていたのです。
しゃく
私には第一に彼が解しがたい男のように見えました。ど
うしてあんなことを突然私に打ち明けたのか、またどうし
て打ち明けなければいられないほどに、彼の恋が募ってき
たのか、そうして平生の彼はどこに吹き飛ばされてしまっ
たのか、全て私には解しにくい問題でした。私は彼の強い
ことを知っていました。また彼の真面目なことを知ってい
ました。私はこれから私のとるべき態度を決する前に、彼
についてきかなければならない多くを持っていると信じま
した。同時にこれから先彼を相手にするのが変に気味が悪
かったのです。 私は夢中に町の中を歩きながら、自分の部屋
にじっと座っている彼の容貌を始終目の前に描き出しまし
た。しかもいくら私が歩いても彼を動かすことはとうてい
できないのだという声がどこかで聞こえるのです。つまり
私には彼が一種の魔物のように思えたからでしょう。 私は
永久彼に祟られたのではなかろうかという気さえしました。 5
私が疲れてうちへ帰った時、彼の部屋は依然として人気
のないように静かでした。
たた
くるま
私がうちへ入ると間もなく伸の音が聞こえました。 今の
ようにゴム輪のない時分でしたから、がらがらいう嫌な響
きがかなりの距離でも耳に立つのです。俺はやがて門前で
止まりました。
私が夕飯に呼び出されたのは、それから三十分ばかり
たった後のことでしたが、まだ奥さんとお嬢さんの晴れ着
が脱ぎ捨てられたまま、次の部屋を乱雑に彩っていました。 15
8 人力車。人を乗せ、 車夫が引いて走る二輪車。
「午前に失ったもの」とは、何を指すか。
「平生の彼」とは、「彼」のどういう一面のことか。
*一段落(が)つく
ゆうめし
*
∞
ころ