年輩の女性がひっそりと現れ、招き入れてくれた。 褐色の革
ソファーが置かれた事務室。足を踏み入れ、はっとした。 眼に入っ
たものは、さまざまなかたちの水槽。 そして、大、中、小、さまざ
まな大きさのマリモだった。見たこともないほどたくさんの緑の玉。
どうやってここを知ったの? 確か、そう訊かれた。道に迷った
んです。 答えてみると、迷ったのかどうか疑わしくなってきた。 探
し当てた、辿り着いた。瞬時にして、そんな気もちに塗り替えられ
る。店の人はそれ以上は問わず、値踏みするように、じろじろと眺
めた。どうぞ好きなだけ見ていってちょうだい。
用がないなら出ていってね。という意味だったかもしれないのに、
店の人の台詞を額面通りに受け取って、心ゆくまでマリモを観賞。
熱心に見ていると、空気はなごみはじめた。ねえ、どう思う、マリ
モって東京でも売れるかしら? 相談されても、どう返答すればい
いのかわからない。売れると思いますよ。適当に答えた。その空間
に留まるあいだにも、おとなしい緑の玉への愛着は、眼に見える細
胞のようにぞくぞくと増殖していく。大きな玉をひとつ、安くわけ
てもらった。
めんどくさい?
KEV