花は盛りに
花は盛りに、月はくまなきをのみ見るものかは。雨に向かひて月を恋ひ
たれこめて春の行方知らぬも、なほあはれに情け深し。咲きぬべきほどの梢、
散りしをれたる庭などこそ、見どころ多けれ。歌の詞書にも、「花見にまかれ
りけるに、早く散り過ぎにければ。」とも、「さはることありて、まからで。」
なども書けるは、「花を見て。」と言へるに劣れることかは。花の散り、月の
ふたぶ
傾くを慕ふならひはさることなれど、ことにかたくななる人ぞ、「この枝、か
の枝、散りにけり。今は見どころなし。」などは言ふめる。