対面して尋ねたところ、僧が言うことには、「過日の夜の夢に、この(北
野の)馬場で、賀茂神社の下級の神官と思われて、その人が) 馬場のはず
れに縄を横に張って、 決勝地点の目印の鉾を手際よく用意していたのを、 夢
心地に不思議に思って尋ねると、院の右の番長秦久清の勝負のためのもので
あると言うと思って(夢から覚めた。(だから) 賀茂の大明神のご配慮で、
(あなたは)勝ちなさるにちがいない」と告げたので、久清は、幼い頃から
賀茂神社にお仕えする者であるので、嬉しく期待できるように感じて、「勝
利の後、お礼は申し上げよう」と言って(僧を)帰した。
その競馬の勝負の)時になって、久清・敦文が組み合って、 敦文が、 先
に立って駆け) ていたが、少しだらしなく見えたので、久清は、相手を見
くびって、遠く距離を保ったまま(真剣に迫ろうとせず) 後を追ってしまっ
た。(ところが、) 敦文の馬がすばらしく(久清の馬に)立ち向かって(勝負
をして)、まさに勝利が決まったという時に、(敦文が馬に) 鞭を当てるのを
止めて決勝地点の目印の鉾の(少し前の)所で安心して振り返ったところ
に、久清が追いついて、敦文の上衣の襟首に手をかけて引いたので、敦文は
(馬から)落ちて、久清が勝ってしまった。勝ったもののあまりに不思議
で、久清が、物差しを当てて (測って)見たところ、鉾が、いつもの地
点)よりも一丈(=約三メートル)以上遠くに立っていた。あの僧の(見
た) 夢も自然と思い合わせられて、(賀茂の)大明神のご配慮がおそれ多く
感じられた。もしいつもの位置に (鉾が)立っていたならば、とっくに負け
てしまっ(てい)ただろうに。不思議だったことである。(久清は)この僧